副題にあるとおり、本書は経営戦略をテーマとして扱う。それがなぜ機能不全に陥り、フレームワークを用いるとすればどのようなポイントを押さえればよいのかを指南する一冊だ。
- 作者:牧田 幸裕
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2009/12/11
- メディア: 単行本
経営戦略の構成要素を理解する
本書によれば「経営戦略」は、「全社戦略」と「事業戦略」で構成され、それぞれに「現状分析→戦略策定→実行計画」のプロセスがぶらさがる。
構造を明らかにしたうえで、各フェーズで起こる「戦略が機能しなくなる要因」が解説されるが、個人的に重要と思われるのは以下の7点だ。
- BCG-PPMやアンゾフのマトリクスといったフレームワークは全社戦略のみで用いるべきものだが、使いどころの間違いや前提を無視した活用が多い。
- 戦略の基本パターンと、自社が採用できる打ち手の関係を理解できていない。
- 現状分析フェーズでは自社の情報中心で、集めにくい競合や市場の情報が不足しがち。
- 分析の準備期間が短く、計画実行のための目標と実現プロセス策定に問題がある(経営企画部門の機能不全)。
- WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)が策定されないため。
- 事後的な効果検証のため、曖昧な評価しかできない。
- マネージャーの高負荷。
上記のうち、太字にした3つの論点について簡単に紹介する。
2.戦略パターンと打ち手の関係
「事業戦略の策定」では、「現状分析」に続いて「競争戦略の策定」が置かれているが、そこで重要なのが「戦略パターン」と「戦略の際立たせ方」だという。
本書が注意を促すのは、自社の業界内ポジションと可能な打ち手には対応関係の原則がある、ということだ。具体的には以下の対応関係で、この前提を無視してしまうことで機能不全に陥いるケースが少なくないのだという。
- 業界第1位:コストリーダーシップ
- チャレンジャー:差別化
- フォロワー:廉価版
- ニッチャー:集中
5.WBSの策定について
まず中期経営計画は「目標(ゴール)」と「達成プロセス」によって構成される。
そのうえで後者の「達成プロセス」について、「何を、誰が、どういう段取りで、いつまでに実施するか」まで落とし込んだのが、「WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)」である。
分解粒度が粗いとゴール未達に繋がるため、想定されるタスクを細かく洗い出すことが重要。
7.マネージャーの高負荷問題
経営戦略の構成要素を整理し、各フェーズのよくある問題と解決方法を示している点で本書はとても優れている。ただ、ここに示された内容を誠実に実行しようとすれば、計画能力に加えて現場業務への深い理解とコミュニケーションが必要になり、経営陣やマネージャーに相当大きな負荷が掛かる(著者もそれを認めている)。
本書に欠けている点があるとすれば、マネジメント実務に関する解決策は何も示されず、「べき論」で軽く片付けてしまっていることだろう。
実際のところ、経営実務の悩みの半分は現場への落とし込みと言ってもよく、マネージャーに求められるスキルや人間力、諸々の理想が無尽蔵に膨れ上がっている状況に対して、解決策を見いだせずにいる組織は多いと思う(ぼく自身、数年間この問題に悩まされ、うつになりかけた…)。
ビジネス環境の変化が年々早くなっていることに加え、最近ではティール組織やフラットな組織、リモートワーク等が理想のように言われている。旧来的な組織体制への反発として、特にスタートアップ界隈にはそうした動きを歓迎する雰囲気があるが、マネジメント難易度はむしろ上がる一方だから、この部分を上手く折り合いつけられるバランスを見つけたいところ。
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