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2019年の年間ベスト本10冊:マーケ、経営書籍を中心に

2019年 年間ベスト本20冊


2019年に読んだ本からベスト20冊を選びました。


昨年1年間で読んだ本は42冊。いちおうの年間目標を100冊にしているので全然未達なのですが、事業模索に必死で余裕ゼロだった2018年が28冊。精神的なゆとりがいくらか戻ってきた気はしています。笑


個人的には例年にも増して、ビジネス関連の書籍を多く読みました。自分の読書スタイルとしては、新刊や話題の本というだけで手に取ることはあまりなく、業務上の課題に対してヒントになりそうな本をピンポイントに選ぶことが多いです。星野リゾート社長の本にも書かれている読書法ですが、切実な問題意識ありきだと実務にも活かしやすいし、なにより次に得るべき情報のキーワードが見つかるのでオススメです。


今回は上位10冊分、簡単なコメントとともに紹介します。


10位:カスタマイズ 【特注】をビジネスにする戦略(アンソニー・フリン他)

カスタマイズ 【特注】をビジネスにする戦略

カスタマイズ 【特注】をビジネスにする戦略


デジタルマーケティングの領域ではデータに基づいたパーソナライズが最重要な時代になっていますが、リアル領域や商品それ自体のあり方においてもその流れは来ています。


ジュエリーやTシャツ、ギフトカードなど、アメリカではいわゆる製造業にカテゴライズされるメーカーが、顧客ひとりひとりの好みに合わせた商品製造を実現。背景には3Dプリンタの普及があるのですが、「オーダーメイド」製品が大量生産の既成品とそこまで変わらない低価格、かつスピーディーに提供できている点が重要です。


無地のTシャツやマグカップを製造するメーカーが激しい価格競争に晒されるのは必至ですが、コモディティ化の悪循環から脱する新戦略としてカスタマイズが注目されているところが面白い。なお詳細な書評は以下をどうぞ。


yasomi.hatenablog.com


9位:値上げのためのマーケティング戦略(菅野誠二)

値上げのためのマーケティング戦略

値上げのためのマーケティング戦略

  • 作者:菅野 誠二
  • 出版社/メーカー: クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
  • 発売日: 2014/02/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


自社サービスをいくらで提供すべきか? 価格設定には絶対の正解がないのでとても難しいですよね。本書は正当な利益確保をしながら、かつサービスをスケールさせるための価格戦略論を学べる一冊です。


多くの企業では、

  • コストにマージンを載せる方法
  • 競合他社に対抗する形の値付けをする方法

のいずれかを採用しているケースが多いと思いますが、本書では「顧客への提供価値」ベースの値付けを推奨し、その道筋を示す内容になっています。


でも「提供価値」の算出なんて簡単できるのか? 結論からいえば、本書を読んだからといって、自動的に価格が導かれるわけではありません。市場におけるポジショニングや販売戦略との整合性など、価格設定はさまざまな条件が絡み合ったなかで意思決定する「戦略」です。むしろかなり難儀な仕事であることに改めて気付かされるでしょう。


それでも大枠の方針と押さえるべき論点は網羅してくれているので、商品開発に関わるような立場の方は、「えいやっ」で価格を決めてしまう前にいちど読んでおくとよさそうです。

8位:THE MODEL(福田康隆)

THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス

THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス

  • 作者:福田 康隆
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2019/01/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


昨年1月に発売。この本は話題になりましたね。マルケト福田氏による新しいセールスモデルの指南書。従来、営業部門が一手に担っていた受注に至る一連のプロセスを、マーケティング→インサイドセールス→営業、その後はCS(カスタマーサクセス)へと分業し、その組織体制と役割の定義を解説する内容です。


またここ数年で「CRO(Chief Revenue Officer)」という役職を見かけるようになりましたが、その意味も本書を読んで分かりました。分業化によって各チームごとの効率を最大化できるメリットがある一方、グループ間での対立が不可避に生じる。そこで「売上」という同じ目標を目指す共同作業として落とし込むのがCROの役割であると。


いまや多くのBtoB企業で採用されているセールス体制のトレンドだと思いますが、ベストプラクティスの型を学ぶ意味で一読しておくのが吉。



7位:広告ビジネス次の10年(横山隆治、榮枝洋文)

広告ビジネス次の10年

広告ビジネス次の10年

  • 作者:横山 隆治,榮枝 洋文
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2014/05/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


欧米の広告代理店各社がデジタル領域出身のCEOを立てて、デジタルシフト&グローバル化に本腰を入れているなか、かたや日本国内では電通しか対応(=イージス買収)に動いてなくてヤバくない? という危機感から書かれた本。前提として、2014年出版の本なので、移り変わりの激しい広告業界の情報としてはやや古いはずです。


ただ個人的な課題感としては、パブリッシャーの立場からアドテク領域に2年ほど関わってきたことで、こと「アドテク」領域についてはそこそこ詳しくなったものの、「広告」を分かっているか? といえば全然そんなことないんですよね。


本書のように「デジタル化待ったなし!」と既存の広告マンたちを叱咤する立場は当然ありつつ、他方で、「テレビCMもやったことない人間に、デジタルの経験値だけで広告を語られてもねー」といった論調も耳に入ってきます。この二者でいえば、ぼくは完全に後者なわけです。


こうした意見を「どこまで真に受けるか」問題はあります。とはいえ実際のところ、デジタル広告市場は右肩上がりといいながら、結局いちパブリッシャーに落ちてくるのはパフォーマンス案件の予算ばかりで、ブランド案件の動きは鈍い印象です。その要因を理解する意味でも、広告業界の全体像を掴んでおくべきかなと思いますし、本書は役に立ちました。

6位:経営とデザインの幸せな関係(中川淳)

経営とデザインの幸せな関係

経営とデザインの幸せな関係

  • 作者:中川 淳
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/11/03
  • メディア: 単行本


生活雑貨の工芸品ブランドを展開する「中川政七商店」。同社は地方の工芸メーカーのコンサルティングも行っているのですが、そのなかで確立された製品コンセプトとブランディング、経営をロジカルに組立てる方法論を解説する一冊です。


ITサービスを提供する弊社(トラベルブック)とは当然商品のあり方が異なるわけですが、ブランド&コミュニケーション設計の重要性、また経営側ではそれをどう評価すべきなのか、という部分が非常にクリアに語られていて大いに参考になりました。


商品企画にせよ、コミュニケーション設計にせよ、「インサイトを発見し、その欲望に素直に応える装置をつくる」ということですね。以前読んだ『プラットフォーム・ブランディング』とも重なる論点が多くあり、ブランド施策の道筋がすこしずつ見えてきた気がします。


ちなみに、中川政七商店を知ったのは、12位に入れた『社長の「まわり」の仕事術』の中で紹介されていたのがキッカケです。社長自身でなく、右腕として働く人たちにフォーカスしたインタビュー集なのですが、彼らの口を通して語られる社長や会社のあり方がとても魅力的で印象に残ります。こちらも書評あるのでよろしければ。

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5位:フレームワークを使いこなすための50問(牧田幸裕)

フレームワークを使いこなすための50問

フレームワークを使いこなすための50問

  • 作者:牧田 幸裕
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2009/12/11
  • メディア: 単行本


副題は、「なぜ経営戦略は機能しないのか?」。経営戦略は、「全社戦略」と「事業戦略」で構成され、それぞれに「現状分析→戦略策定→実行計画」がぶら下がる、という構造を紐解き、各プロセスを正しく機能させるための要点がQ&A形式で整理された良書です。


詳細は以下の書評でも言及しているのですが、戦略設計&実行の重要性ゆえの「マネージャーの高負荷」問題はかなり切実な課題になってくると思います。


yasomi.hatenablog.com


ちなみに11位の『最高の結果を出すKPIマネジメント』はリクルート社のKPI運用のノウハウを解説した本で、こちらも合わせて参考になりました。

4位:採用基準(伊賀泰代)

採用基準

採用基準

  • 作者:伊賀 泰代
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2012/11/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


自発的に動けるメンバーが集まる組織をどう作るか? というのは永遠の課題ですが、エントリーマネジメントにおいて確認すべきスキルセットを指南する一冊。ポイントはずばり「リーダーシップ」です。


目的達成のために、自分が必要だと思うことはまずやってみる。変化に適応するのではなく、変化を起こす。それがリーダーシップであり、著者が在籍していたマッキンゼーの採用では基礎的なスキルや経験に加えて、このリーダーシップ・ポテンシャルの有無を重要ファクターとして審査するんだそうです。リーダーシップはマネージャーという役職に紐づくのではなく、全員に求めるということですね。


これは非常に実践的かつ、ともに仕事をするメンバー同士にとっても大切な基準だと感じます。リーダーシップと成果主義はセットであるという指摘もマネジメント課題として真摯に受け止めるべきポイント。

3位:THE TEAM 5つの法則(麻野耕司)

THE TEAM 5つの法則 (NewsPicks Book)

THE TEAM 5つの法則 (NewsPicks Book)

  • 作者:麻野 耕司
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/04/03
  • メディア: 単行本


チームの生産性を最大化するノウハウ本で、目標設定・人員選定・コミュニケーション・意思決定・エンゲージメントの5要素について解説。巷の経営論同士が一見矛盾して見えるのは、チームのタイプにより最適解が異なるため。本書はそれらを包括し、各マトリクスからポジショニングを選択できる方式で、実践上とても役に立ちます。


たとえば、

  • メンバーの多様性をどの程度重視すべきか
  • メンバーへの権限移譲はどの程度が適切か
  • 成果とプロセスどちらを重視すべきか
  • 独裁と合議はどちらがよいのか

等、これらの論点に絶対解はないことと合わせ、自社にとっての最適解を選ぶための指針が提示されています。


またメンバーのエンゲージメントを高める要素として、マーケティングになぞらえた「4P」(哲学・理念/活動・成長/人材・風土/金銭・地位報酬)が紹介されていて、各要素への投資は選択的に実施する(つまり全部には投資しない)ことで、投資対効率を高めるという解説には目からウロコでした。


数時間で読める内容にも関わらず、各章で紹介される体系は経営学や組織論等、アカデミックな知見に裏付けされていて信頼できるし、当たり外れの大きいNewsPicks本のなかでは成功事例の一冊のように思います。リンクアンドモチベーション社の啓発本としても、威力絶大。笑


前述の問題意識とも重なるのですが、人材の流動性上昇や非ヒエラルキー組織的な理想化が進むなか、マネジメント難易度はますます高まっています。それに伴ってマネジャーの果たすべき役割もどんどん肥大化しているのはマズい状況です。現実問題として無理。


「偉大なチームに必要なのはリーダーではなく法則だ」と帯にもありますが、本書は工学的にこの問題を解決するアプローチを採用しており、実効性の現実味を感じました。



2位:海辺のカフカ(村上春樹)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/03/01
  • メディア: ペーパーバック


自分の読書傾向として、小説というジャンルはあまり得意じゃないのですが、例外的に読む作家のひとりが村上春樹です。言わずとしれた国民的ベストセラー作家ですが、彼の作品は大衆に理解されているとは思い難い、暗く重いテーマ(具体的には、歴史・暴力・欲望・悪など)を扱っている印象を受けます。


『ねじまき鳥クロニクル』以降、村上春樹は「戦争の暴力」を真正面から描くようになるのですが、オウム真理教の地下鉄サリン事件を経た『海辺のカフカ』では、太平洋戦争が重要なモチーフになっています。


春樹作品をめぐっては、「やれやれ」が口癖の受け身な主人公が、何故か知らんが女性にモテて成り行きセックスをするご都合主義的作品だ、といった定番の揶揄があります。たしかに初期の作品の主人公は、自分が置かれた環境とか、降りかかる暴力に対し、諦めとともに受け入れるスタンスが特徴的でした。でもそれが時代を経るに連れて、主人公が変化を望んで行動を起こすようになって来るんですよね。


行動を起こす――。前述のリーダーシップの話じゃないですが、行動を起こすことは勇気がいることです。間違えるかもしれないし、誰かを傷つけるかもしれない。自分が置かれていたような理不尽な立場に、今度は誰かを立たせる側に自分が回ってしまうかもしれない。それでも変化を起こす側に回るしかないのだ・・・。


そういう変化を追いながら読む面白さがある作家だと思います。今年は『アフターダーク』以降を読む予定。(ちなみに本作の主人公カフカは少年なので、「やれやれ」とは言いません。笑)


1位:新記号論(石田英敬、東浩紀)

新記号論 脳とメディアが出会うとき (ゲンロン叢書)

新記号論 脳とメディアが出会うとき (ゲンロン叢書)


年間ベスト本はこちら。ビジネス書から一気に人文書へ。笑


ただ個人的には無関係では全然なく、そもそもの社会観でいうと、ぼくは資本主義社会を完全には肯定できず、とても多くの問題を抱えた体制だと考えています。かつてマルクスが予言したような問題がそのまま起きてしまっているからです。でも今やマルクス(主義)は「終わった思想」として見限られています。


ぼくたち現代人は、労働者であり/消費者である、という2つの顔を持つはずですが、多くの人にとって「消費者である」というリアリティの方が強いのではないか。要はそっちの方が楽しいのです。そしてマルクス主義=ロシアは、「労働」の理論は精緻に分析したけれども、「消費=欲望」の理論を持てなかったから、思想として資本主義=アメリカに負けました。


資本主義の問題点を克服するには、消費のロジックを解明するしかありません。でもそれはいま、GAFAに代表される巨大プラットフォーマー、マーケティング産業に占有されてしまっている。消費のテクノロジーはメディアを基盤として展開されています。そこでメディア論、記号論という人文学の知見を軸に分析に取り組もう、というのが本書のプロジェクトの大枠です。


人文書の場合、議論の射程が長い(平気で100年とか1000年単位で物事を考える)だけに、コレ一冊読んだくらいでは「???」になることうけ合いですが、マーケティング実務の先端を突き詰めながら、そのマーケティング産業を包括する社会のあり方を批判的に考えるのはなかなかスリリングだと思っています。(たとえばGDPRとかね)


以上、2019年の年間ベスト10冊でした。2020年は書評記事のアウトプットも増やしていけるようがんばりたいです。今年もよろしくお願いします。


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