支援者(コンサルタント)として、相談相手(クライアント)の問題解決を実現するための条件を理論化した一冊。「問題を解きほぐす」営みに価値がある、という気づきを与えてくれる内容で、いわゆるコンサル業務に関わる人だけでなく、リーダーや教師、親など、何らかの支援に関わる立場にある人にとって参考になるだろう。
謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か
- 作者:エドガー・H・シャイン
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2017/05/17
- メディア: 単行本
問題が複雑化した時代の支援のあり方
まずはサマリーを把握したいという方は、本書の「監訳者による序文」を読めばよい。そこでは以下のように要約してくれている。
コンサルタント(自分) の手助けによって、クライアント(相手) が、
- 問題の複雑さと厄介さを理解し、
- その場しのぎの対応や反射的な行動をやめて、
- 本当の現実に対処すること
が、本当の支援なのである。*1
ここでのポイントは、主語が「クライアント」になっていることに注意しよう。
通常、コンサルタントは特定の技術領域だったり、業界知見を保有するスペシャリストであるわけだが、「問題」はそのノウハウだけで解決できるわけではない。ビジネス環境の変化や、現組織の成り立ちの経緯、関わるメンバーの力関係や心理的問題・・・等々、クライアント固有の複雑な背景がある。
解き方がすでにわかっている「技術的な課題」であれば専門家や熟練者が問題解決に導くことができる。だが「適応を要する課題」に取り組むためには、クライアント自身が学習し続けて、ものの見方、世界のとらえ方を変えていく(適応していく) 必要がある。
(……)
自分が手助けすることによって、相手が「気づく」ことに集中する──これが、シャイン流コンサルティング最大の特徴といえよう。*2
クライアントはたしかに自分だけで問題を解決できない。が、といって、コンサルタントが一方的に「正解」へと導くやり方でも、やはり解決することは難しい。スタートの段階では、どちらも答えを持っていない。まずはその事実を「ともに認め合う」ことから始める。
具体的な流れは以下のようになる。
- 個人的な信頼関係を築き、
- 解決に必要な知識や技術が自明でない問題だとクライアントとともに認識したうえで、
- 相手の悩みを好奇心と共感を持って聞き、
- それを通して「アダプティブ・ムーブ」を一緒に決める
「アダプティブ・ムーブ」とは、状況を問題解決に向けて一歩、しかし確実に前へと進めるためのアクション、くらいの概念と考えればよい。
クライアントを支援するというのは、クライアントだけではできないことを、クライアントとともに、クライアントのためにすることだと私は考えている。ただ、私のしたことが助けになったかどうかを最終的に判断するのは、基本的にはクライアントだ。*3
全体の読後感としては、臨床心理士のカウンセリング手法とも通じ合う部分が多い印象を受ける(「クライアント」という用語の出自を考えれば、むしろ当然ではあるが)。会話のスタイルを、目的が明確な「ディスカッション」から、共同で探求する「ダイアローグ」に変えろ、という話なんか特に。
マーケティング的にいえば、クライアントの相談事の背後にある「インサイト」を発見する営みと表現することができるかもしれない。