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アジアの背骨とバッド・トリップ――中島らも『エキゾティカ』

『エキゾティカ』は、アジア各国をテーマにした中島らもの短編集だ。食事の描写が多いことに触れて、あとがきで著者は「それにしてもこれは腹の減る本だ」と短い感想を述べているが、どちらかといえばマリファナの魅惑に引き込まれる感覚の方が強かった。

エキゾティカ (講談社文庫)

エキゾティカ (講談社文庫)

 

 

上海、香港、東南アジアの国々を舞台に短い物語が語られる。自宅のベッドに寝転がりながら、バンコクシンガポールを訪れたあのときの倦むような蒸し暑さ、独特の生臭い空気がよみがえるような気分になる。登場人物たちは、たしかに皆よくメシを食っている。ポリ袋にじかに入れたナシ・ゴレンの弁当がうまそうだ。

 

中島らも作品の主人公たちには、どこか諦念の気配が漂っている。『今夜、すべてのバーで』は、映画「クワイエットルームにようこそ」のラストシーンにも似た読後感のある作品だった。アルコール依存、あるいは精神疾患を抱える登場人物たちは、自身を取り巻くある構造からどうしても抜けられない。ところがあるとき、衝撃的なイベントによって不意に突破口を見いだす。ああ、これでもう大丈夫。そう思いながら病院を離れていく。きっとまた戻ってくるのだろう、という余韻を残しながら。  

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 

 

どうしても抜け出せない。もがいてもがいて、やっと抜けられた。今回こそは!――そう思ったのも束の間、気づけばもとの場所に戻っている。その全体が巨大な円環の構造になっている。客観的には悲惨な光景そのものだが、そこには不思議と苛立ちや悲壮感のようなものがない。本書には幻覚のシーンも何度か出てくる。これは著者自身のことばだろうかと思わせる台詞も少なくない。虚実が入り混じった、それでいて心地よいイメージ。 

この濃厚なガンジャの煙には惹かれるが、わたしには街中で騙されて買った牛の糞の方が似合っているような気がする。
それよりも、
「ナマステ?」
「KUMIKO!?」
あの美しい一瞬。そうした瞬間を紡いでいくためにだけ、わたしは何千枚という原稿用紙を文字で埋め尽くしていくのではないだろうか。

 

いい加減なタクシー運転手たちになんどなんども知らない場所に連れていかれながら、13年ぶりの再会をインドで果たした夢のような一場面。大麻で歓迎会。

別の国の物語では、ベトナム戦争で現地人(ベトコン)によって作られた地下トンネルの要塞も出てくる。アメリカ兵が地獄だと恐れたクチという場所らしい。おおそりゃ君、ダークツーリズムじゃないか。旅をしたくなる本だ。

 


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