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人類の負の歴史と「軽薄」な観光の可能性について――『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』

 近年、観光のひとつのスタイルとして「ダークツーリズム」という考え方が注目されています。今回は哲学者の東浩紀氏が監修した本書に触れながら、ダークツーリズムについてすこし紹介してみようと思います。

チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1

チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1

 

 

直訳すれば「暗い観光」といった意味になるダークツーリズムは、「戦争や災害といった人類の負の足跡をたどりつつ、死者に悼みを捧げるとともに、地域の悲しみを共有しようとする観光の新しい考え方」のことです。具体例をあげれば、9.11の現場であるニューヨークのグラウンド・ゼロ、第二次大戦時にユダヤ人虐殺の舞台となったアウシュビッツや、広島の原爆ドーム、あるいは第二次大戦後の朝鮮半島で「赤狩り」の名のもとに拷問・虐殺が行われた済州島・・・などなど。

 

観光というとなにはともあれ気軽で楽しいものをイメージする人が多いと思います。けれども、あえて悲劇の現場を訪ねてみることで、虐げられた人々、人類の歴史を(英雄や偉人とは別の仕方で)つくってきた存在に触れること――ダークツーリズムの意義はなによりそういうところにあるとされています。

 

ただ、こう言うといかにも堅苦しい話のようにも聞こえますよね。ダークツーリズムは観光の新しい考え方だといわれていますが、じつは多くのひとが修学旅行ですでに近い体験をしてきています。でもそこでの「学び」をとても退屈に感じたひともまた多いのではないでしょうか?(ぼく自身がそのひとりです)

チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』の提示する重要なメッセージのひとつは、「べつに観光として気軽に楽しんでしまってOK!」ということで、そのスタンスは本書全体に貫かれています。そうした視点を持つことこそがむしろ、「歴史の犠牲となった弱き人びとの存在と向き合う」というぼくたちの負荷を軽減し、観光の新しい可能性を切り開くのだ、という思想なんですね。

 

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画像引用:http://store.cinra.net/item/detail?bookId=100000000022901

 

東氏たちがチェルノブイリの街や原発を訪れるのは、いうまでもなく3.11の東日本大震災、そして福島第一原発の事故を受けてのものです。本書のなかに書かれていることですが、チェルノブイリ原発はじつはまだ現役の送電施設('00年まではなんと発電もしていた!)であり、施設内では多くのひとが働いています。つまり人間が近寄れる程度に放射線量は下がっている。そのうえ、今では世界中から勝手に観光客が集まってきているのだそう。

 

東氏はそこに、事故から25年後の福島の姿をみます(チェルノブイリの事故は1986年4月に起きています)。現地のひとたちや日本人が好むと好まざるとにかかわらず、「ヤバイ場所」を見るために、観光しにくる連中が勝手に集まってくる! そうした事態を見据え、いやむしろ逆手に取って「観光地化」をすすめるべきだ。――そうした活動の一環として本書は位置づけられたものです。

 

福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2

福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2

 

 

ぼくもその考え方に賛同しています。原発問題にたいする世の関心は急速に薄れていっている。あるいは、原発の賛否をめぐる議論は、経済的な合理性という観点でしか語られない。そうした状況には何とか抵抗しなければなりません。

「工場萌えのひとはぜったいチェルノブイリ原発に行った方がいい!」と力説する著者は、たしかに一面「軽薄」ですが、そうした消費的欲求は気楽な衝動だからこその強さがあるし、うまく利用すべき/するしかないように思います。

(じっさい現地の写真は超カッコイイ)

 


ゲンロン×HIS 東浩紀と行くチェルノブイリ事故の記憶とキエフ騒乱の足跡をたどる7日間

 

ちなみに、今回の募集は終わっていますが、ゲンロン社(東氏の会社)主催でチェルノブイリ原発を見学できるHISのツアーが企画されたりもしています。国内の民間ツアーで原発内に入れるのは現状このツアーだけだとか。じつは参加しようか、けっこう悩みました。。

 

ダークツーリズムを応援したい

トラベルブックではさまざまな切り口でまとめを作っています。「世界の絶景」のようなまとめはやはり人気でアクセスも稼ぎやすいのですが、ぼくたちとしては、じっさいに旅行・観光で役に立つ情報を提供したいという思いがあり、地味なまとめにこそ力を入れていたりします。

 

で、これはまだサイトの方針に盛り込まれてるわけではないのだけど、ダークツーリズムという切り口のまとめや特集も増やしていきたいなと個人的に思っています。とりあえず現時点だと、アウシュビッツについてまとめた以下の記事くらいなんですよね~。

 

【ポーランド】ナチス・ドイツの負の世界遺産!「アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所」 - TravelBook(トラベルブック)

 

「旅行者の選択肢を豊かにする」ことがトラベルブックのミッションだということもありますが、なによりもぼく自身の関心を満たすためにも少しずつ充実させていきたいです(笑)。