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ブランディングの科学は可能か?@川上慎市郎、山口義宏『プラットフォーム ブランディング』

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ブランディングは難しい」。


ビジネスにおけるブランディングの重要性は理解しながらも、そう感じている人も多いのではないでしょうか。そもそも「ブランディング」とは一体なにで、自社(あるいは自分自身)についての好意的なイメージをどう形成したらよいのか? 『プラットフォーム ブランディング』はそんな疑問にひとつの回答を与えてくれる一冊です。

プラットフォーム ブランディング

プラットフォーム ブランディング

コンセプトは「ブランディングを科学する」


本書の特徴は、ブランディングを「アート」と「サイエンス」という2つの側面に分けたうえで、思い切って後者のみにフォーカスするという点にあります。「ブランド戦略は再現性のあるロジックであり、学習によって習得が可能なスキル」*1であるとして、できうる限り理論的な体系化をめざす試みをしている点で非常にユニークです。


では本書が描く現代の「ブランド」とはどんなものなのか? 結論を先取りして言ってしまえば、それは以下のようなもの。

そのエッセンスをまとめると、ブランドは「モノの良さ」だけでなく、「体験全体の価値を蓄積し、想起させる基盤」「生活者との間で共有化できるテーマを見定め、生活者を主語にした課題や願望を解決支援する基盤」「効率的な知覚形成を重視し、戦略投資の傾斜配分を実施するレバレッジ効果の基盤」という三つの基盤=プラットフォームへと進化していると言える。*2


ブランドがプラットフォーム化している。一体どういうことでしょうか?

技術のコモディティ化と生活者の体験価値


そもそもブランドとは何か? 本書によれば、ブランドとは「生活者の頭の中にある、企業や商品が提供する体験の価値と分かりやすい識別記号とがセットになった記憶」のこと*3なのだと言います。ブランド戦略やブランディングというと、つい「広告宣伝」を連想してしまいがちですが、それは広範に及ぶブランディングという取組みのごく一部分の話にすぎません。


ブランディング=「記憶」ということは、「何が価値と理解し、記憶に残るかは、最終的には生活者に委ねられる」ということです。特に近年ではあらゆる領域で技術のコモディティ化が急激に進んでいます。「技術力が強みにならない時代に何をブランドの源泉とするか」、そう問いを立てたときに鍵となるのは、ぼくたち生活者ひとりひとりが受けとる「体験の価値」です。

ブランド体験フローを構築せよ


ブランドを「体験の価値」と捉えると、体験の機会となるのは購入した製品を使用するその瞬間に限らないことに気が付くでしょう。

今や、生活者のブランド体験を形づくるのは、企業の広告と製品だけではない。店舗を訪れたり、製品を購入したりしたユーザーの個別の体験が、ブログやフェイスブックツイッターといったソーシャルメディアで共有され、蓄積されることでブランド自身の資産となるのだ。*4


具体的な例として本書で紹介されるのが「ドロリッチ」の事例です。ドロリッチは2008年にグリコ乳業が発売した高粘度のコーヒーゼリー飲料で、当時ツイッターで「ドロリッチなう」とつぶやくする人が続出。ツイッターが日本国内で広まり始めた時期なので、覚えている方も多いのではないでしょうか。

【参考】ドロリッチとは - ニコニコ大百科


ここで著者らが注目するのは、人々がドロリッチという商品そのものの品質に価値を見出したというよりも、話題になっているその商品を手に取り、「ドロリッチなう」とつぶやきたい――そうした動機づけによって、半ば商品それ自体は置き去りにしつつ、「ドロリッチ」というイメージが独り歩きしていく運動です。


生活者たちがこのような体験を形成する一連の運動を、本書では「ブランド体験フロー」と呼び、いかにそのフローを意図的に生み出すか、という部分に焦点を当てていきます。ただすぐに分かるように、ドロリッチの事例はグリコ自身がその細部までを入念に企画して実現した現象ではありません。もちろん商品自体の特徴や、初音ミクとのコラボ企画によって話題性を狙ったことは間違いありませんが、おそらくは企画者たちの予想をはるかに越えた「バズり」方をしていたはずです。


生活者が感情や欲望を刺激され、キャンペーンに動員されていく時、本質的にその運動の全体をコントロールすることは不可能です。できることはただ、自分たちの商品を媒介(メディア)として、人々のコミュニケーションを促すキッカケと環境を提供しつづけることだけ。そこで以下のような結論が導かれることになります。

言い換えれば、ブランドは生活者に対する価値そのものというよりは、さまざまなコミュニケーションの「場」の総称、すなわち「プラットフォーム」となるべきだということだ。*5

ブランド=体験の一貫性を保証する単位


プラットフォームとは「ユーザーとユーザーのコミュニケーションを媒介することで価値を生み出す場」*6である。では、そうして生まれたコミュニケーションのあるべき姿とはどんなものでしょうか?


このことに関連して、本書ではブランドを「単なる知名度の資産」として見做すのではなく、「一貫性で育てる知覚価値」と認識すべきである点を強調しています。ブランドとは「体験の一貫性を保証する単位」である。逆をいえば、仮に異なる価値を持つ商品を提供する場合には、異なるブランドを用意するべきなのです。――たとえば、ユニクロにおけるGU、スターバックスにおけるシアトルズ・ベストコーヒーのように。


こうしてひとつの単位として規定したブランドにおいて、「体験の一貫性」を保つために著者らは2つの観点を導入しています。ひとつは長期間にわたって変わらぬ印象を与える「時系列での一貫性」、もうひとつはどの顧客接点に触れても変わらぬ印象を与える「接点間での一貫性」です。

以上の議論から、ブランドの評価は以下のとおり因数分解されました。

生活者のブランド評価 = 体験の魅力度 × 体験の量・時間 × 体験の一貫性*7


アップルやフォルクスワーゲンの「「顧客体験(UX) のデザイン」への異常なまでのこだわり」もまた、この等式の各項を最大化するための取組みなのです。

生活者主語への「拡張」


ここまでで冒頭で紹介した結論のなかの1点目「体験全体の価値を蓄積し、想起させる基盤」について紹介してきました。残り2つの点についても簡単に触れておきます。まずは2点目の「生活者との間で共有化できるテーマを見定め、生活者を主語にした課題や願望を解決支援する基盤」について。


前述の公式における「生活者のブランド評価」を別の観点から分解してみると、「ブランド知覚価値は、「生活者主語の知覚価値」と「ブランド主語の知覚価値」の二つで構成され」、両者は相補的な関係にあるといいます*8


f:id:yasomi:20180630092104p:plain*9


ブランド知覚価値の全体構造をモデル化したのが上の図です。下にあるのがブランド側が「自分たちの製品がいかに素晴らしいか」を語るレイヤー、上が生活者(消費者)主語で「自分の生活がいかに素敵になるのか」を見出すレイヤーです。近年のトレンドでは、下のブランド側から一方的にメッセージを押し付ける形のブランディングは成立しづらくなっており、上の「生活者主語の知覚価値」がより重要性を増していると。*10


市場における競争力を考えた場合には可能な限り、具体的なエビデンスを示す下の領域で差別化できることが望ましく、その領域で差別化できない場合には、より上のレイヤーである象徴的顧客像のイメージ形成によって差別化が必要となります。が、相対的に多額のプロモーション費用投入が必須となるでしょう。


この図の良いところは、上から下に行くほど、よりリテラシーの高い生活者が判断材料とする傾向にあることが分かる点です。またたしかにトレンド上は「生活者主語の知覚価値」が優位になっているものの、「ブランド主語の知覚価値」も依然として(とりわけ高級ブランドでは)重要な要素。つまり必要なのは主語の単純な転換ではなく「拡張」であることも分かります。

マーケティング諸理論との関係


最後に「効率的な知覚形成を重視し、戦略投資の傾斜配分を実施するレバレッジ効果の基盤」についてですが、ブランド戦略とは「事業戦略とマーケティング4P施策をつなぐ核となる戦略を策定する」という明確なミッションがある*11、という位置づけの整理がこのトピックの要諦になりそうです。


マーケティング4P施策まで落とし込んだ先のデザインや広告クリエイティブは、たしかに属人的なアートの比重が高く、普遍的に再現することは難しい。でも、施策の手前にあるブランド戦略は形式知にできる割合が高い。そう整理したうえで、事業部横断的な共通認識の形成が成功の鍵を握るため、経営トップの積極的支援の重要性を繰り返し強調しています。


本書の優れた点のひとつとして、既存のマーケティング理論のエッセンスを真摯に取り込みつつ、各理論の位置づけと自身の主張を整理して見せた点も挙げられると思います。


個人的には、マーケティング本で教科書的に解説される「ターゲット顧客の設定」にまつわる、「顧客を絞り込むことで、結果的に捨ててしまう層が出てくるのではないか?」という疑問を取り上げ、「そうではないのだ」ときちんと回答している点*12や、またそもそもブランド知覚価値を設計すべきかどうかは、(より上流の行程である)経営戦略上の判断で決まるもので、「会社の強みが市場トレンドに後追いするスピードしかなく、徹底的にヒット商品に便乗したゲリラ戦で勝つということであれば、無理に施策の手数を縛るようなブランド知覚価値を設計することはない」と明言している点*13にも納得感がありました。


ちと長くなりましたが、企業のブランド戦略はあらゆる部門に関係する取組みであるだけに、多くのビジネスパーソンにとって良質な基礎知識を提供してくれる一冊としておすすめです。

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*1:第一章より

*2:第四章より

*3:序章より

*4:第二章より

*5:第二章より

*6:第三章より

*7:第一章より

*8:第五章より。ただ、本書においてはおそらく用語上の混乱があり、「ブランド知覚価値」が前述の「生活者のブランド評価」言い換えなのか、あるいは右辺の「体験の魅力度」の言い換えなのか、一般の用語との対応がやや不明瞭な箇所があります。

*9:第五章より。下の図は具体例として挙げられているひとつがダイソンの掃除機を当てはめた例

*10:なお「インサイト」とは、「人々の隠れた欲望」を意味するマーケティング用語です。『欲望する「ことば」――「社会記号」とマーケティング』等が参考になります。

*11:第四章より

*12:第五章。本書では「ブランドターゲット」と「セールスターゲット」を区別することを推奨しています。

*13:第一章より

千葉雅也 × 東浩紀「モノに魂は宿るか──実在論の最前線」:前半部の要点まとめ #ゲンロン

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3月末に「ゲンロンカフェ at VOLVO STUDIO AOYAMA #5」として放送されたイベント。前後半合わせて3時間を超える対談を、後日タイムシフトで視聴しました。

genron-cafe.jp

とくに後半の議論が面白かったのですが、前半部の千葉さんによるプレゼンは思弁的実在論の状況について分かりやすく整理されており、非常に勉強になりました。今回もメモを取りながら観ていたら大量になってしまったので、前半部のメモをこちらにまとめておきます。

togetter.com

前半部の要点

ガブリエル『なぜ世界は存在しているか』について

  • 結論:マルクス・ガブリエルの話題の書『なぜ世界は存在しているか』は全く面白くない。
  • 多様性を肯定する、かつてのポストモダンに近いが、その実在論化に踏み込んでいる。
  • 一角獣やアニメのキャラのような虚構的存在を含め、すべてのものに、自然科学的なものと同じ「存在する」という身分を与えようという議論。
  • ドイツのガダマーの解釈学やフランスなら構造主義を例にあげるまでもなく、「人文科学のなかで理念や虚構的存在をどう扱うか」ということと、「人文科学をいかに発展させるか」という方法論とは常にセット。ところが、ガブリエルはあまりに素朴に「存在認めちゃえばいいじゃん」と言ってしまっている。自然科学批判の文脈にあるのは分かるのだが・・・。
  • カジミール・マレーヴィチ「黒の正方形」を見て、コンテクスト抜きに正方形そのものを捉えるのだ、といった議論が出て来るが、芸術理解としても100年遅れている印象。メイヤスーやハーマンはもうすこしアクロバティックで面白い。
  • 「一角獣について考える人文系に価値があると考えるあなたも、素粒子について考える科学者も同じ存在について考えているから大丈夫」みたいな人文学の自慰的な話。ある存在者(とりわけ人文学的な存在者)について考える人の権利を擁護する話になっちゃてる。
  • 「これ以上私の傷に立ち入らせない」権利主張。「なぜならばそれは私の意味の場に存在しているから」。この本が支持されたことは、ポリコレに象徴される時代の空気と共振している。

実在論ブーム」とはなにか?

  • いわゆる「実在論」ブームは、「現代思想」の最先端の状況。フランスの「ポスト構造主義」(ドゥルーズデリダ等)に影響を受けているものを指す。このブームは英語圏での分析哲学の動きではない。
  • 代表的論者はメイヤスー、ハーマン、ガブリエル。
  • 思弁的実在論(SR)がその中心。「非人間」=人間とは関係なく、人間的な「意味の理解」の外側に独立に「実在」しているものそのもの、がテーマ。
  • ただし、SRはロンドン発で、ガブリエルはそれと直接関係はない。
  • 実在論」とは、事物がそれ自体として存在すると認め、事物を客観的に記述できるとする立場。
  • 人間は事物を「ある捉え方で」捉えており、その「捉え方なし」で事物「それ自体 in itself」を知ることは出来ない。という立場がカント以来、近現代哲学のデフォルト。
  • 人間にプリセットされた物事の捉え方=超越論的な構造。ポストモダニズムはカントからの論理的帰結。
  • 「新しい実在論」とは、私たちの認識とは独立して実在について哲学的に議論できるはずだ、とする立場。

「新しい実在論」とポストモダン思想の関係

  • ドゥルーズデリダらのポスト構造主義の哲学者は「差異」を論じ、人々はそこから事物を一面的にではなく、「多様に理解しよう」というメッセージを(本人の意図とは関係なく)受け取った。
  • が、それは捉え方次第で「どうにでも言える」という「相対主義」ではないかと批判が生じる。現代の実在論では、相対主義批判の乗り越えが課題。
  • ナチのトラウマから、ドイツは革命的なものを否定してしまっている。ニーチェと全く逆のことを主張しながら、ドイツ国内ではニーチェの再来のように学会で受け入れられている。カルスタ、ポスコロ、ポリコレ受け入れのための哲学的基礎づけの本。哲学的後退。
  • メイヤスーの「相関主義」批判。私たち=人間がどういう捉え方をしようとも、そこから独立に実在する世界があると言いたい。「私たちにとって世界がどうであるか」、という思考のフレームワークばかりの研究をする立場=「相関主義」と名付ける。「無人の世界」としての実在に「アクセス」しようとする試み。

「思弁的実在論」の成立

  • 2007年にロンドンで始まった「思弁的実在論」ワークショップ。
  • レイ・ブラシエ、イアン・ハミルトン・グラント、グレアム・ハーマン、カンタンメイヤスーの4人がオリジナルメンバー。
  • ブラシエが名付け親。思弁的実在論は当初ネット・カルチャーとして流通。

哲学研究の分裂(現状の派閥)

  • パリからロンドンへ。パリっぽい野心的な哲学者では、ロンドン経由で世界に拡散したメイヤスーのみが別格。それ以外のSR関係者はロンドンか辺境。3のメインストリームからもさらにドロップアウトしていることが重要。哲学の制度化にうんざりした人たち。でもまたすぐに制度化されていく風潮。
  • 「人文科学においても科学の方法論でやろう」という単純な発想になってしまっている傾向。実在論ブームとはいいつつも、サルトルフーコーの社会的インパクトと比べると随分スケールダウンしていることは否めない。
  • 余談:インド出身で英語圏で活躍している人は階級が高い。スピヴァクはプリンセスの家系でファーストクラスでしか呼べない。笑

「思弁的実在論」の代表論者について

カンタン・メイヤスー
  • 主著:『有限性の後で』
  • ある種の唯物論を主張。真の実在は数理的に記述されるもので、それは人間的な(数的ではなく質的な)意味付けの外部にあるとされる。
グレアム・ハーマン
  • オブジェクト指向哲学の代表者。主著は『四方対象』
  • あらゆる事物を「オブジェクト」と呼ぶ。
  • オブジェクトは根本的には他から絶対的に分離しており、「自らに引きこもって」いるとされる。絶対的無関係。ハイデガー的にいうと「タイ イン」。
  • オブジェクトがバラバラに存在するレベルが「実在的」であり、他と関係づけられているレベルは「感性的」である、という二重構造(の入れ子構造化)で世界を説明
  • 「新しい実在論」論者は傾向として、「そんな素朴なこと言うか?」と思えるようなことをガチで論証する人たち。ただハーマンは「なぜ世界はバラバラなのか?」ということに何の論証も与えておらず、そこはメイヤスーと異なる点。
マルクス・ガブリエル
  • 日常的な事物や文学的作品のキャラクターにも量子物理学と同等の実在の地位を与えるべきだという立場。ある事物の実在を支える「意味の場」というのは無限に多様なので、それを包括するような「世界」は存在しない、という議論。
  • 『なぜ世界は存在しないのか?』というタイトルでは「世界」の意味を変えてしまっている。よくない。
  • 根源的な「非人間的な意味」の存在を論証する議論になれば面白いが、その場合にも「意味」の意味が変わっていることにはなる。
  • ポストモダンでは「もののあり方というのは捉え方だ。だから真の実在にはアクセスできない」。
  • ガブリエルは「もののあり方というのは捉え方だ。だから捉え方によってすべて実在する」と突き抜けた。
  • でもそれって「俺にとっては二次元の嫁は存在する」みたいな話。マイノリティやポリコレ擁護に使えてしまうのがこの本。

「加速主義」

  • テモなどの左翼運動を「フォーク・ポリティクス」と呼んで批判。抵抗のポーズを示すだけではダメ。技術発達を徹底的に加速させること。少なくともそれを理念とすべきとする立場。
  • 一時期の浅田彰未来派野郎。ポストモダニズムの反復。
  • 理念にはもちろん共感するが、非常に抽象的なスローガンに終始してしまっている。そんなこと言われても具体的にどうすればいいか分からない。デモは分かりやすいから参加できる。
  • 80年代の反復に気づかずに、ガブリエルの議論を初めて聞くように捉える若者も多いのではと懸念する。

東浩紀の「否定神学」批判との類似性

  • 否定神学システム批判=メイヤスーの相関主義批判
  • 世界と思考の相関。その外部にアクセス不可能なものがあり、それについて議論の空中戦を繰り広げるのが東浩紀が指摘した「否定神学システム」。『存在論的、郵便的』で展開された批判というのは、カント以来の近現代哲学のシステム総体にたいして向けられたもので、そのオルタナティブとして「郵便的」(アクセス不可能なものではないような外部性)なものを提示しようとした試みだといえる。
  • 東さん自身、いまにして思えば、「ドイツ観念論否定神学の構造を持っているよね」という話だったと。神秘思想、ロマン主義の残滓。フランスの話してるんじゃない。でも当時の能力ではそこまで持っていけなかった。
  • いずれにせよ、ヨーロッパに関してここ最近になって登場した議論が、日本には90年代すでにあったということ。
  • 「新しい実在論」には、人文学の自己否定になりうるモメントがある。人文学は他者というものをいかに解釈によって多様にみていくかという営みだった。だが今の実在論は、解釈を超えた実在というのが厳然としてある、という話。
  • デリダエクリチュール論はそのことに自覚的な仕事だった。J.サールとの論争、『有限責任会社』。疲れたら議論を辞める、ということでしか実在はない。ままならない外部性、有限性の問題。
  • ところがデリダのように物質性について考えようとした人が、不可能なものに取り込まれてしまうパターンが哲学では何度も繰り返されている。
  • 哲学が取りこぼす物質性について考えようとしたのが『存在論的、郵便的』。その意味で東浩紀の仕事はマルクス主義的。
  • 「動物」「アーキテクチャ」「観光客」という概念も、社会学とはまったく違う抽象度のレイヤーで考えようとしているが、その点がなかなか理解されない。

「人新世(アントロポセン)」の動向

  • マルクス主義における下部構造はつねに経済的なものだった。さらにその下部構造として、気候や地質、災害、疫病みたいなものが出てきている。唯物論的条件の再発見。
  • ところが、ガブリエルの本は「新しい実在論」や「人新世」のような理工系やSF的な話とは関係がない。非常に文系的な本。

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存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて

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大澤聡 × 先崎彰容 × 東浩紀「日本思想」の再設定:前半部の要点まとめ #ゲンロン

「日本思想」の再設定 ──西郷隆盛と三木清から考える明治維新150年
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3/13にニコ生で放送されたゲンロンカフェのイベントを視聴しました。明治維新以降の日本の状況について情報密度の高い議論が交わされ、めちゃくちゃ勉強になりました。前半部の議論だけですが、取ったメモをここにまとめておきます。

genron-cafe.jp

現在タイムシフト視聴期間は終了していますが、また再放送がされるかと。面白いので超おすすめです。

togetter.com

前半部の要点

先崎さんの基調講演
  • 福沢諭吉は「近代化」(西洋を頂点とする一元論的な進歩史観)を支持し、結果的に1945年へと繋がる下地を作った。それに対して、西郷隆盛は反近代的ともいえる(多元主義的でのちのアジア主義に繋がる)立場を、福沢と同じ明治初期にすでに表明していた。というのが、一般的な評価。そのうえで、「いや、両者の思想はそう単純ではない」と主張するのが先崎さんの本。
  • 明治時代というのは、情報が急激に拡散するようになる最初の時代。西郷が死ぬことになる西南戦争は、「東京の大久保利通=西洋かぶれだ」というバイアスによって、怒り爆発した部下たちを抑えられず引き起こされたもの。いわば西郷は、福沢が重要視した情報通信を使いこなせず敗北した。
  • 福沢は『文明論之概略』のなかで、「近代化(西洋文明化)と文明化は違う。文明化を目指すべきだ」と明確に言っている。福沢は近代化の支持者ではない。近代化とは精神的な余裕を失って、すぐ人にキレる社会になっていくこと。現代の禁煙ファシズムにまで繋がっているかもしれない。
  • 福沢諭吉は『文明論之概略』で、「自分たちの世代は特別なんだ」と言っている。西洋化が来る前と後を両方知っている世代というのはこの後には居なくなり、そして当然後世の日本人は忘れていく。だからこの本を書いたのだ、と。
  • 福沢や西郷の世代の引き裂かれ感はリアル。かつて指導側だった人間が部下たちに地位を奪われ、立場が完全に逆転した。精神の安定が壊れ、そこからクリスチャンへと入信する者も出てくる。これまで信じてきた秩序がぶっ壊される、近代化以降の第一のすごい時代だった。
大澤さんの基調講演
  • 大正期は、「文明」が「文化」という言葉に切り変わり、一気にスケールダウンした時代。明治初期に盛り上がった立身出世主義が後期には停滞し、環境に適応して成功に突き進むエリート/文学や哲学に引きこもるやつ/絶望して自殺するやつと、概ね3パターンの若者が出現した
  • そこから修養主義(人格主義・道徳主義)へと進む人間が増え、明治末期にはエリートの教養主義と大衆の修養主義へと分断が進んでいく。大正時代には前者を岩波書店、後者のエンタメを講談社が体現した。大衆はファシスト的公共圏を形成。エリートを馬鹿にし、それが第二次大戦のファシズムを支えた。
  • 昭和期になると大衆消費社会の時代がやってくる。「教養主義は古臭い。時代はカントでなくマルクスっしょ」と、労働者の革命云々という以上に、教養主義のアップグレード版としてマルクス主義は受容され、文献主義的な知的勝負になっていく。(その分当時日本のマルクス主義解釈は世界観最先端だった)
  • 昭和10年代には昭和教養主義が出てくる。代表者として、河合栄治郎は人格主義のリバイバル三木清は実践を伴わない大正教養主義批判を始める。三木は「文化じゃだめだ」として文明の再興を目指したひとり。このあたりまでが昭和リベラル的なものが残っていたギリギリ最後の世代。
  • 日本の教養主義は独特で、フリッツ・リンガーがその二重性を指摘している。すなわち、差別等の不寛容に対してはリベラルでありながら、大衆蔑視の目線を持っている、と。モダニズムはそもそも大衆蔑視だが、日本では修養主義や農村的エートスが出自なので、その差別性を緩和する、ということでは。
  • 1923年の震災を契機に明治回顧ブームが起きる。火災による書物の消失への危機感から、全集の刊行が活発に。アーカイブによる日本思想史の可視化が(結果的に)実現された。
  • 明治回顧ブームのなかには、1933~37年かけて起きた日本資本主義論争というのがある。明治維新ブルジョア革命であったかどうか?が争点。封建制は壊され近代化はすでに果たされたとする立場(労農派)と道半ばだとする立場(講座派)。
  • 1930年代後半の日中戦争期、中国という外部=他者を発見。垂直的な上からの支配でなく、水平的な連帯がいかにすれば可能かをエリートたちがギリギリ模索していた=「東亜共同体論」。しかし、1940年代に入るとその可能性は潰え、全面的に「大東亜共栄圏」論へと移行していく。
  • 「明治国家の二重構造」(竹内好)は、西洋とアジアを同時に睨まないといけない日本の地政学的な条件に規定されている。
前半部のまとめ議論
  • 以上の状況を振り返るだけでも、2018年現在に起きていることは、実は過去すでに起きていることと非常に似ている。教養主義と修養主義の対立は、戦後のハイカルチャーサブカルチャーの対立とも並行関係にある。純文学と大衆文学の対立において、後者は言文一致が排除したものの回帰ではないか。
  • 近代以降の日本において、公からの撤退には2パターンが出てくる。ひとつは江戸への回帰、もうひとつは西洋型の私小説(純文学)へ進むパターン。政治とヨーロッパの両者から排除される前者は、文脈無関係に事実を繋げ物語を紡ぎ出す。たぶんネトウヨアニメアイコンが多いことの根源がこの辺にある。
  • 日本の問題点は同じ構造を反復してるのに、それに気づかずに前に進められないこと。そう提言しても、「ニッポンのジレンマ」とかでは歴史とかいいから地頭使ってゼロベースで考えよう、となりがち。経営者とそこで分かり合うのは難しい、反復によって富を蓄積する人たちだから。
  • 地頭で考える人は新興宗教にとびつきがち。教養の軽視は自己に対する根拠のない信仰に繋がるが、不意に自己への不安が生じると心の拠り所を求めてしまう。
  • いまの時代はまじめな時代。これは危ない。ぼくたちがまじめに考えても政治を変えられないんじゃないか、というためらいを持ちながら語るのが批評であり言葉の役割。ハイデガーは「哲学の役割は世界のジョイントを回復することだ」と考えたが、デリダは「ジョイントを外すことが重要だ」と考えた。

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マロ。さん作「kindle highlight to WorkFlowy」でlocation要素を子階層化

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Tak.さんの『アウトライン・プロセッシング入門』を読んだこともあり、WorkFlowyを本格的に使い始めました。まだまだ使いこなすというレベルには程遠いですが、すでに便利さを体感しているので、Pro版に移行し活用を進めています。

kindleのハイライトをWorkFlowyにインポート

kindleで読書をしつつ付けたハイライトを記録しておくとき、これまでテキストエディターで余計な箇所を一括置換で削除する作業をしこしこやっていたのですが、これもWorkFlowyに取り込んでいきたい。検索すると、この作業を簡略化するブックマークレットをマロ。さんが公開してくれていました。

https://note.mu/maro_draft/n/nde874428ec77note.mu

kindleサイトのハイライトページで、出力したい書籍のページを開き(本のタイトルリンク→「You have 00 highlighted passages」と進めばOK)、ブックマークレットを実行。別タブで表示されたOPML形式をそのままWorkFlowyにコピペするとさくっと以下の状態になります。(「bqを親トピックにしないバージョン」を利用しました)

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改造版ブックマークレット

これだけでも非常に便利なのですが、個人的に欲を言えば、以下のようなスタイルにしたい。

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これを実現するために、マロ。さんのブックマークレットを少し編集させていただいたのが以下のコードです。(コピペしてお使いください)

javascript:(function()%7Bvar txt='<?xml version="1.0"?>%5Cn<opml version="2.0">%5Cn  <head>%5Cn  </head>%5Cn  <body>';var a=$('%23allHighlightedBooks').children();for(i=0;i<a.length;i++)%7Bif(i==0)%7Btxt+='    <outline text="'+a.eq(i).children('.title').text().replace(/&/g, '&amp;').replace(/>/g, '&gt;').replace(/</g, '&lt;').replace(/"/g, '&quot;').replace(/%5Cn/g, '&%2310;')+a.eq(i).children('.author').text().replace(/%5Cr?%5Cn/g,'').replace(/&/g, '&amp;').replace(/>/g, '&gt;').replace(/</g, '&lt;').replace(/"/g, '&quot;').replace(/%5Cn/g, '&%2310;')+'" >%5Cn';%7Delse if(a.eq(i).hasClass('yourHighlightsHeader'))%7Bbreak;%7Delse%7Btxt+='      <outline text="' +a.eq(i).children('.highlight').eq(0).text().replace(/&/g, '&amp;').replace(/>/g, '&gt;').replace(/</g, '&lt;').replace(/"/g, '&quot;').replace(/%5Cn/g, '&%2310;')+'" >%5Cn';txt+='        <outline text="' +a.eq(i).children('a').text().replace(/Read more at /g,'').replace(/&/g, '&amp;').replace(/>/g, '&gt;').replace(/</g, '&lt;').replace(/"/g, '&quot;').replace(/%5Cn/g, '&%2310;');if(a.eq(i).children('p').children('.noteContent').text()!='')%7Btxt+='" _note="'+a.eq(i).children('p').children('.noteContent').text().replace(/&/g, '&amp;').replace(/>/g, '&gt;').replace(/</g, '&lt;').replace(/"/g, '&quot;').replace(/%5Cn/g, '&%2310;')+'" />%5Cn';%7Delse%7Btxt+='" />%5Cn';%7Dtxt+='        <outline text="' +a.eq(i).children('a').attr('href').replace(/&/g, '&amp;').replace(/>/g, '&gt;').replace(/</g, '&lt;').replace(/"/g, '&quot;').replace(/%5Cn/g, '&%2310;')+'" /></outline>%5Cn';%7D%7D;txt+='    </outline>%5Cn  </body>%5Cn</opml>';var w = window.open();w.document.open();w.document.write('<!DOCTYPE html><html lang="ja"><head><title>kindle highlight</title><style type=%5C"text/css%5C">textarea%7Bwidth:100%25;height:500px;%7D</style></head><body></body></html>');w.document.body.innerHTML = "<textarea>"+txt.replace(/&/g, '&amp;')+"</textarea>";w.document.close();%7D)();


このスタイルだと何が嬉しいかというと、ロケーションとkindleへのリンクの階層を非表示にして、引用テキストのみをリスト化できること。下記画像では章立てを手動で入力(自動化出来ないよね…?)していますが、各章をさらに章見出しの子要素へ移動すればさらに便利そうです。

f:id:yasomi:20170723145737p:plain


子の階層以下を閉じるには、以下の彩郎さんの記事にあるとおり、Zoomしたタイトルをダブルクリックすれば要素を開閉できます。

WorkFlowyのトピック折りたたみ機能の基本 - 単純作業に心を込めて

追記:7/23夜

ブログを公開したところ、マロ。さんご本人からリプライをいただき、8月にkindleサイトのリニューアルで上記ブックマークレットが使えなくことを教えていただきました。

f:id:yasomi:20170723224203p:plain


たしかに!苦笑
こんなデカデカと告知されてたけど、全く見落としていたという。。


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新ハイライトページはこんな感じ。


こちらの新ページに対応したブックマークレットを先ほどマロ。さんの方で作成されたそうなのですが、なんと私の要望も取り込む形で対応してくださっています。新ハイライトページ用のブックマークレットは以下の記事より入手が可能です。

note.mu

よかったらカンパしてね!

マロ。さん、便利なツールを公開&要望にご対応くださりありがとうございます!
私の改造版ブックマークレットも含めて、もし気に入っていただけたら、以下のnoteから彼にカンパも出来ますので、ぜひ。

マロ。|note

おまけ

生涯投資家

生涯投資家

今回読んでいた本。村上ファンド事件の真相と、コーポレート・ガバナンスの必要性を訴え続ける彼の真意・信念を理解できました。おすすめです。

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ゴミ収集車に群がる私たち――異文化接触@台湾出張 その2

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 台湾に来て3週間が過ぎました。支社立ち上げの方は、煩雑な手続きにぐったりさせられつつも、おおむね順調に進んでいます。 現地の言葉もまだまだロクに話せず、街に出ればいまだ新鮮な驚きに満ちていて刺激の多い毎日ですが、このくらいの滞在期間ともなると観光モードはひと休み。ふつうの「生活」が始まっています。

 

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 “1斤売り”というシステムの存在は知っていても、実際に立ち寄った果物屋で量り売りのルールが分からず、予想外にたくさん買ってしまうという月並みな失敗をやらかしたり、スーパーでネギやパクチーを買って来ては満足し、台湾製のインスタント麺とともに簡単な調理をしてみたり。と、どこからどう見ても日常生活という雰囲気。

 

 さて、生活(というか家事)において重要な位置を占めるのがゴミ出しですよね。とくに生ゴミ。日本でも夏場の生ゴミの処分には気を遣うわけですが、台湾は年中夏みたいなもんです。滞在1週間目で3匹のゴキブリを殲滅し、ムシ耐性も心なしか上がっていないでもない今日この頃ですが、出来ればお目にかかりたくないのがほんとの気持ち。そこで私は「ゴミ出しそびれない」ことを深く心に誓いました。 

 

台湾のゴミ出しイベント

 日本人にとってゴミ出しといえば、毎週決まった曜日、決められた場所に可燃・不燃・資源などと分別したゴミを出し、朝〜昼にかけてゴミ収集車がそれを回収するというのが一般的。

 一方、台湾でも可燃・生ゴミ・資源(不燃ゴミや粗大ゴミはまだ捨てたことがないので知らない)と分別はありますが、印象としてはけっこう大雑把。でもいちばん日本と違うのが収集の仕方でしょう。私たちがよく知っているようなゴミ収集場に置いていくやり方はしません。たしかにこんな暑い中に放置したらいかにもやばそうだし。

 

 ではどうするのかというと、台湾では毎日決まった時間に街のなかを巡回しているゴミ収集車に向かって、ゴミ袋を握りしめた人たちの方が近づいていき、順番にゴミを車へ投げ入れる。というやり方を採ります。

  

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 こんなかんじでポイッと。徐行してるとはいえ、走行中の収集車にゴミを投げ入れるのは地味に難易度高し。生ゴミはおじさんの横に置いてある樽へ捨てる(さすがに止まってくれます)。

 

 最初聞いたときには「マジかよ。色々むずかしくね?」と思ったのですが、収集車は「乙女の祈り」(テクラ・バダジェフスカ作曲)のオルゴールを大音量で鳴らして近づいて来るので、うっかり忘れるということはありません。むしろ、たとえ仕事の途中であっても、ゴミ出しに作業の中断を迫られるほど。

 

www.youtube.com

 

 部屋のなかにいて、「あ、遠くから“ゴミの曲”が聞こえてきたな」と気づいたところで、さっとゴミをまとめて外に出る。このくらいのテンポで大丈夫なのだと、最近やっとコツも分かってきました。

 出し忘れまいと気負うあまり、「この界隈には18時頃にやってくるから」と聞いて18時すこし前に外へ出て待ち構え…なんてことをやっている人は、現地の生活に不慣れな私たち以外にはひとりもいません。巡回はそこそこ時間どおりですが、そこはあくまでそこそこ。“5分前行動”的なのはそれこそ時間の無駄です。

 

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 こちらは路地裏にて。わらわらと集まりゴミを捨てる人々の図。最近では現地のお父さんに「慌てず歩いて捨てられて、すっかり地元民だ」と褒められ、気を良くしている毎日です。

 

 いよいよ暑さも本格化の気配。熱中症気をつけます。

 

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ドラえもんと哲学書――異文化接触@台湾出張 その1

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 トラベルブック台湾支社の立ち上げ準備で現地まで出張に来ています。台湾はいま梅雨シーズン真っ盛りで高温多湿の蒸し暑い毎日。晴れ間がのぞけば猛烈な日差しが容赦なく肌を焼く、なかなかタフな気候条件です。それでも食べ物はおいしいし、暑さに文句を垂れながら街を歩けば、不思議と元気な気持ちが湧いてきます。

 

 台湾には過去何度か旅行で来ていますが、3〜4週間の長期滞在は初めてのこと。言葉が通じなくても意外となんとかなってしまう台湾(とくに台北界隈)ではありますが、今回ばかりは多少なり中国語を身に着けたいと思い、すこしずつですが勉強を始めました。

 

travelbook.com.tw

 

 今月始めにオープンしたトラベルブック台湾版サイト「TravelBook 旅人網」は、台湾人や中国人のスタッフが中心となって運営してくれています。また社長の長田さんは上海の復旦大学の卒業生で、中国語はペラペラ。

 という風に、トラベルブック社内には中華圏の言語や文化に強い人たちが集まっていて、語学学習についても色々とアドバイスをもらえるわけですが、そんな社長に勧められた「教材」が中国語版のマンガ『ドラえもん』。日本人に馴染みのあるストーリーで基本的な話の筋は決まっており、セリフの量も多すぎず少なすぎず。それでいて飽きずに読める。というのがおすすめのポイントだとか。

 

 私は素直にも近所のコンビニ数軒を回ってみました。しかし残念ながら『ドラえもん』には出会えません。そこで台湾で有名な大型本屋「誠品書店」へ行ってみることに。すると無事、一巻だけあった『哆啦A夢』をゲットすることができました。あと、ついでのつもりで立ち寄った哲学書の棚で一冊の本に惹かれてしまい、思わずこちらも購入(トップの写真左)。もちろん全部中国語。“読めない本”を買ってしまうというのは、なんとも不思議な体験です。

 

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 もうね。この目次を見てテンション上がっちゃったわけです。「尼采」とか書かれても、中国語が分からない身には「?」なのですが、「超越善悪」「道徳系譜學」を唱えた人物らしい。ああ、ニーチェかなと。

 「純粋理性批判」の「康徳」と来れば疑いなくカントだし、「亞里斯多德」なんかはこうなると名前だけでも分かりやすい(そう、アリストテレスですね)。このあたりで、どうやらこの本は著名な哲学者を紹介した入門書らしいことも分かってきます。400ページ近い本で400元(現在1台湾元=3.3円なので約1300円)という定価の安さも魅力でした。いつかの自分はきっと読めるさ、という気概。

 

台湾にはない「再販制度

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 しかも、です。聡明な読者はお気づきかもしれませんが、この本の帯には「79折」というシールが貼ってありました。中華圏では「8折」などと書いて、「定価の8割で販売=2割引」という割引価格を表わすのですが、その発想でいくとこの本は「21%引き」で買えそうだぞ、と気づくわけですね。

結構な割引率で嬉しい! けど、なぜに?

 

motto-taiwan.com

 

 そこで調べてみると、上記ブログにその理由が解説されていました。

 

台湾の一般書の定価は、250〜350元あたりが多いです。 日本と大きく違うのは、新刊発売後の1か月は「79折」(21%オフ)になること。 発売直前から発売後約1か月は宣伝・販売の集中時期にあたり、実際の店舗とネット書店はほぼ同じ割引率で買うことができます。

 

本好きな人や好きな作家の作品を常にアンテナを立てている読者は、気になる新刊があれば、本屋で買う人が多いようです。 既刊本の多くは割引無しか10%オフくらいしかありません。 既刊と新刊が同じように店頭に平積みされるわけですから、新刊が圧倒的に買い得感を与える、ということになります。

 

 この本の発行時期を確認すると、まさに今月発売になったばかり。新刊を割引して売っているとは驚きです。また先の記事によれば、台湾では書店ごとに本の価格がちがうことは普通で、とくに大学近くのお店では学生・教員向けに3割引で販売、とかいうことも珍しくないのだとか。大学生協を除けば、全国ほぼ一律の価格で売っている日本の書籍事情とのちがいが鮮明で、とても面白いなと思った次第です。こんど台湾の大学を観光するときは本屋にも寄ってみたいと思います。

 

 さて肝心の中国語ですが、「レジ袋いりません」がスムーズに言えるようになり、成長著しい毎日を送っています。やったね!

 

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経営戦略の名著を教えてくれる本――『星野リゾートの教科書』

 星野リゾートは旅館・ホテルの運営会社である。1904年、長野県軽井沢町で創業した老舗旅館「星野温泉旅館」がその前身で、4代目社長に就任した星野佳路(よしはる)社長は、独自の経営戦略で日本を代表するリゾート運営企業へと成長させた。星野リゾートの特徴のひとつは、施設所有にこだわらない運営特化戦略だ。全国各地でリゾートの運営を引き受けながら、軽井沢や京都では高級旅館「星のや」の展開を進めている。

 

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画像引用:星野リゾート奥入瀬渓流ホテル グランドオープン | 奥入瀬エリア情報

 

 アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院で経営学を学んだ星野氏の経営戦略は、「教科書通り」を徹底するスタイルだという。『星野リゾートの教科書』は星野リゾートケーススタディとともに、星野社長がどんな「教科書」を活用してきたのかを紹介する内容になっている。

  

星野リゾートの教科書

星野リゾートの教科書

 

 

教科書に書かれていることは正しい

 「経営に教科書なんて役に立たない」という疑問をもつ人も多いかもしれない。しかし星野氏によれば、そう感じるとしたら「理解が不十分」か「取り組みが徹底されていない」可能性が高いという。「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」――。星野社長がそう確信する背景にあるのは、「企業経営は、経営者個人の資質に基づく『アート』の部分と、論理に基づく『サイエンス』の部分がある」という洞察だ。

 

 経営手法を社会科学的に分析し、体系化したものこそがサイエンスに基づいた「教科書」であり、そこに書かれている定石(セオリー)を経営判断の指針とすることは理に適っている、というのが星野氏の主張である。そしてまた、ひとつの経営判断のミスが致命的なダメージにつながる小さな会社こそ、教科書通りのセオリーを活用する意義が大きいと星野社長は強調する。

 

教科書としてふさわしい本とその読み方について

 もちろん、「教科書通りにやりなさい」と言っても、経営にかんする本なら何でも良いわけではない。星野社長は教科書の選び方と、その活用方法について3つの指針を提示している。

 

1.書店に1冊しかないような古典的な本ほど役に立つ

 教科書に適した本は新しいものよりも古典的理論のなかにある、というのが星野氏の基本的な考えだ。流行の波を乗り越えて体系化された理論だからこそ、定石として使える。著者のプロフィールもチェックし、学問と実践(ex.コンサルタントなど)を行き来した研究者の本がよい。経営者の感性や成功体験にもとづくエッセイなどは教科書としては利用しづらい、ということに自然となるだろう。

 

 候補となる本を見つけたら、1章のエッセンス部分をざっと読み、「自社が抱える課題にとって役立つ教科書になりそうか」という観点、自分の悩みにたいする“フィット感”で決めるとよい。

 

2.1行ずつ理解し、分からない部分を残さず、何度でも読む

 教科書として活用するためには、読み物的な読み方ではいけない。1行ずつきちんと理解しながら読んでいく。何度も読み返すために、時には数か月間でも持ち歩き、線を引いたり、付箋を貼ったりする。思いついた点は本に直接書き込む。読書メモは、本とメモが離れてしまうのでおすすめしていない。

 

 教科書から離れるときは、本に書かれた自分のアイデアをプレゼンテーションソフトで一気にまとめていく。

 

3.理論をつまみ食いしないで、100%教科書通りにやってみる

 学んだ理論を実際の経営に適用する場合には、教科書に書かれていることをすべて忠実に実践してみる。「3つの対策が必要だ」とあれば、必ず3つすべてを実施すること。「導入しやすい部分」「都合のいい部分」だけを導入しようとする人は少なくないが、そのやり方だと、成果が出なかったときに原因が特定できないからだ。


 上記の3つのポイントは一見大変そうだが、それほど難しくないと星野氏は言う。

 

教科書通りの戦略を打っても、なかなか成果が出ないこともある。私は何度もそんな経験をしてきたが、苦しいときでも教科書通りだという自信があれば耐えられる。
うまくいかないときには戦略を微調整することを考えるが、その判断は慎重にする必要がある。「効果が出るには時間がまだ不足している」「きちんと教科書通りにしていない」という理由で成果が出ていない場合は、戦略を変える必要はない。そんなときに作戦変更することは深い霧の中に入っていくようなものだ。

(…)

微調整をするのは、すべてを教科書通りにやり切ってからである。*1

  

気になった教科書

 さて、実践事例とともに本書の中で紹介される30冊はどれも魅力的に解説されているのだが、ここでは特に気になったものをいくつか紹介してみたい。

 

『競争の戦略』 
競争の戦略

競争の戦略

 

 

 お客様視点のマーケティングが強調されていた時代に、「ライバルの動向こそが重要だ」と喝破したポーターの理論。ポーターは企業がライバルとの競争で取るべき戦略として以下の3つを挙げ、この中から戦略を選んで徹底すべきだと主張した。

 

1.「コストリーダーシップ」:コスト競争力で優位に立つ
2.「差別化」:競争相手との違いを前面に出す
3.「集中」:特定の領域に自社の経営資源を集めてライバルに勝つ

 

 ケーススタディでは、島根県松江市玉造温泉にある「華仙亭有楽」や長野県松本市の浅間温泉にある「貴祥庵」の事例が紹介されている。団体客旅行から個人旅行の時代へと変化し、それに伴って団体客の減少分を個人客で賄おうと二兎を追ってしまった旅館を、星野社長はポーターの理論を適用して再生を実現した。

 

『1分間顧客サービス』 
1分間顧客サービス―熱狂的ファンをつくる3つの秘訣

1分間顧客サービス―熱狂的ファンをつくる3つの秘訣

 

 

 本書でも取り上げられている『ビジョナリー・カンパニー』が経営ビジョンの重要性について語るものなら、こちらはサービスコンセプトの重要性を強調する著作といえる。会社の向かう方向である「ビジョン」を決めるのは経営者の役割であるが、そのビジョンに基づいて個々のサービスの「コンセプト」を決めるときには、社員やスタッフを巻き込みながら明確化すべきだとする一冊。

 

 このビジョンやコンセプトというのはいまいち飲み込みにくい概念だと思うが、星野リゾートの例で考えると非常に分かりやすい。

 

経営ビジョン
 「リゾート運営の達人」になる

 

施設ごとのコンセプト
 星のや京都:「水辺の私邸」
 リゾナーレ(山梨):「大人のためのファミリーリゾート」
 青森屋(青森):「のれそれ青森」
 タラサ志摩(三重):「海エナジーをチャージする」

 

 経営ビジョンによって会社の向かう方向を示したうえで、個々のサービス施設とそこで働く関係者たちの「なりたい姿」を明確化していくというものだ。お客様の要求が自分たちの目指している製品・サービスと合致しない場合、「要求を無視すべきだ」と断言しているという点も、たいへん興味深い。

 

 著者のブランチャードは、「1分間」シリーズで有名な人物で、彼の著書は名だたる企業の「教科書」になっているらしい。本書で紹介されるもう1冊の本『1分間エンパワーメント』も非常に面白そうだ(ただし絶版のためすごい値段がついている)。

 

『イノベーターの条件』 

 

 いわずと知れたドラッカーの著作だが、ドラッカーの本はいくつも出ているので、どれから読もうかといまだ手を出せずにいるもののひとつ。そもそもドラッカーのマネジメント論は、ナチスドイツを生み出した全体主義的組織を分析し、こうした非人間的な組織の発生をいかに防ぐかという観点で書かれていたはずなので、個人的にはマネジメントの理論そのもの以上に、ドラッカーの社会に対する分析の方に興味を持っている。「はじめて読むドラッカー」シリーズの社会編ということらしいので、まずはこのへんから読んでみるのがいいかもしれない。

 

『戦略サファリ』 
戦略サファリ 第2版 -戦略マネジメント・コンプリート・ガイドブック

戦略サファリ 第2版 -戦略マネジメント・コンプリート・ガイドブック

 

 

 学問全体に共通する話だが、経営学の内部にもどうやらいろいろな立場があり、一見万能そうにみえる有名な理論にも批判が加えられていたり、ある仮定のもとでのみ適用できる理論であったりと、「これが正解」という理論は、当然ながら存在しないらしい。自分が適用しようとする理論を学びつつ、その限界を知っておくこともまた重要だろう。

 

 この本は、経営学の戦略論を10学派に分け分析した内容とのこと。本書ではわずかなコメントとともに紹介されているにすぎないが、学問的関心がある人間にはなかなか面白そうな内容である。

 

 

 以上、簡単に紹介してみたが、とりあえず読みたい本がみつかることと、「星野リゾート泊まってみてえ~~」となるのは間違いない!

 

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*1:星野リゾートの教科書』pp.24-25